~片目になってしまった、マロンの笑顔【マロン・ザ・ゴールデン】
ボクは、マロンの笑顔が大好きだ。
大きな瞳に、真っ黒な目玉。
ゴールデン・リトリーバーの笑顔は、くったくがなくって、ホント、笑うって事に一点の迷いも疑いもありゃしない。
そんなマロンの笑顔を見ているだけで、ボクは幸せだった。マロンを仔犬の頃から育てて、一緒に生活してづっと。
そんなマロンの笑顔の中に、左目の曇りを見つけたのは、2018年の夏だった。
マロンは、そろそろ10歳を迎えようとしていた。
彼は、気付かぬうちにボクを追い越して、いわゆるシニア犬になっていた。
今思えば...、ディスクを投げて昔前みたいにジャンプして、キャッチできなくなっていた。それを見て、ボクは「カッコ悪いぞ、トロイ犬」なんて言っていた。マロンは、そんなことお構いなく、笑顔でディスクを追いかけていた。
それから1年が過ぎ…
ボクは、マロンの片目が失われたことに、少なからず落胆した。
その瞳の豊かな愛情表現にどれほどか癒やされ、大好きだったからだ。
そして、いつしか自分をどこか責めるような気持ちになることがあった。
ある日、マロンは、散歩の時に足を踏み外して、側溝に落ちた。ほんの横にあるディスクを見つける事ができなくなっていた。
今、その左目は戻らないのだ。
でも、マロンは自分の左目が失われたことに落胆するでもなく、やや不自然に
変形した左右アンバランスな表情で、いつものようにボクに微笑みかけてくれる。
やがて、気付いたんだ。
マロンの笑顔の気持ちが半分になったわけではない、
マロンのボクへの愛情が半分になったわけでもない、
そして、マロンの幸せが半分になったわけでもない、
すべてボクが勝手に、片目を失って、不幸だって思おうとしただけだ。何かに責任を押しつけることを求めて、自分勝手に悲しんでいただけだ。マロンは、いつだってボクに微笑みかけてくれる。づっと、づっと。
いつしか、ボクは、こう決意した。
片目になったら、もっと笑わせてやろう、
愛嬌のある笑顔だって、もっと笑ってやろう、
片目になったから、もっと幸せにしてやろう、
だぶん今までよりも時間の流れが速くなるから...
ボクは、マロンに、何か教えられたような気がした。
マロンとボクの物語はたった一つの大切な物語だ。それは、その人とそのペットの数だけあって、それぞれが世界にたった一つの大切な物語なのだ。
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