マロン・ザ・ゴールデン

片目のシニア犬”マロン”と保護猫”タマ”の日常生活

マロン、今日は君が旅立つのに、ちょうど良い日だ(5)<完>

 マロン、ボクは君と一緒に暮らして、後悔したことは一度もない。

 

でも正直言うと、最後の一ヶ月のある日、ボクはこのまま君を置き去りにしたら死なせることができる、と思ったことがあったんだ。それは、雪がこんこんと降る、深夜トイレの時だった。

 

ボクは君を雪の上に置いたまま、じっと君を見つめた。君は、降る雪に埋もれながら黙ってボクを見つめた。ボクたちは、ずっと雪上にうずくまったままいた。君は助けを求めず、ただ黙ってしんしんと降る雪に埋もれていった。深夜の雪の降る中、ボクたちは、沈黙の5分間を、そのまま過ごした。

 

そんな君もこの一ヶ月、ボクをいつも探していたね。君は、もう見えず、聞こえず、ろくに動けなかった。だけど一人ベッドに寝かしつけても、必ずボクを探して寝床を抜け出し、冷たい床に寝転んでいた。介護でも脱走かよ(笑)。それは君の明確な意思表示だった。そして、ボクがそばにいるのがわかると、ようやく安心してスヤスヤ眠ってくれたね。

 

いよいよ動けなくなって、最後の眠りについても、君は時より目を覚ますと、ワン・ワンと、とにかくボクを呼んだ。まるで自分の最後が近づいているのを知っているかのように、最後の最後まで、君はボクに甘えた。

 

そのたびに仕事を中断させられて、ウザかったりしたけれど、本当は君のワガママは、うれしかったよ。

 

繰り返すよ。最後の介護は、しんどかった。でも、それは君がボクにとって、大切な家族だったってことなんだ。

 


最後まで、飼い主を呼びつけるイヌ【マロン・ザ・ゴールデン】

 


エドシーランの曲に合わせて、清流沿いを散歩してマロンと泳いでみた!【マロン・ザ・ゴールデン】

  

 マロン、ボクと暮らしてくれて、ありがとう。

 

 

最後に、マロン、今日は君が旅立つのに最良の日だ。

 

マロン、本当に、本当に、ボクの人生の傍らにいてくれて、ありがとう。

 

仕事の状況が悪い時、キャベツの捨て葉をサラダと言って食べさせていたことがあった。ボクは、ツラかったけれど、君はシッポを振ってバリバリ食べてくれた。うれしかったよ。その姿がどんなにボクを励ましただろう。ボクは、君の前では素直になれた。

 

君を失った今、ボクは、しばらくは犬を飼えないだろう。一年か、三年か、それともこの後一生か。前のラッキーが亡くなった時、悲しみのあまり、電気を消して眠れなくなった。

 

けれども、君を失って、今のボクは酷い悲しみを感じない。それは、ボクが自分でできる限りのことを君にやらせてもらったから。君は、三度の危篤を乗り越えて、永遠の眠りについた。ボクが君を失って味わう喪失感を癒やすのに、十分な時間を君は、ボクに創ってくれたんだ。

 

だから君の介護には、手がかかったけれど、その手がかかる何倍も君はボクに最後の幸せを分け与えてくれたんだ。

 

君が傍らにいてくれた時間は、ボクの人生の中の輝かしい一部だ。だから君は、永遠にボクの心の中に生き続ける。いつも舌をだして、イタヅラっぽく笑った、君のウィンクをボクは決して忘れない。

 

また、いつか会おうね、マロン。

 

その時まで、天国で好きなだけ飛び跳ねていればいい。また目が見える、音も聞こえる。遠くからボクのことを見守ってくれよ。

 

おかげで、楽に君を見送ることができた。もちろん涙は出たけれど、でもそれはボクの心を傷つける後悔の涙ではなく、君を失った喪失感を癒やし、君に対する感謝の涙だ。

 

今は、ホットケーキを焼いて、その端っこをあげる相手がいないことに気づく。時間になれば散歩を催促してくる、めんどくさいヤツはいない。そんなふとした寂しさを感じる毎日だ。けれども後悔に自分を責め、君を失った悲しみを嘆くことはない。

  

ずっとボクの傍らにいてくれてありがとう、マロン。これから寂しくなるよ。 君の遺灰は、大好きだった、十三度目の春の山林に散骨するからね。

 

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<完>